2012年12月27日木曜日

カブレにくいうるしにかぶれてみる!

さて、前回買いに行った、カブレにくいうるし「NOA」。



どれくらいカブレにくいのか?

それを実験してみたいと思います☆


まず、公開されている特許情報を参考にすると、
カブレの状態を測定する手法は下記のように記載されています。

------------------------------------------------------------------------------------------------
漆の接触試験(以下パッチテストという)は、人体の上腕若しくは前腕の内側の皮膚に直接漆を直
径5mm程度の大きさに3分間静置した後、布で拭き取り、シンナー等の溶剤で更に拭き取ったのち、石ケン水で洗浄した。
カブレ発症状態の判定方法は24時間後に次の基準に従って目視で判定した。発症なしを0、赤斑
の軽度を1、やや軽度を2、やや重症を3、重症を4、水泡の軽度を5、重症を6、潰瘍を7として判断し記録した。被験者はアルファベットで区別し・・・・。
------------------------------------------------------------------------------------------------

そして同じ文献から、同一の被験者に「普通の漆」と「カブレにくい漆」でパッチテストを行った結果が下記の表です。



(※ こちらで元文献には無い「被験者」「普通の漆」「カブレにくい漆」のラベルを付けています。)


お~、すばらしいぃ(=´Д`=)/

これによれば、「普通の漆」に比べて「カブレにくい漆」での接触の方が「カブレ」の症状が劇的に軽度ですんでいることが判ります。

しかし「普通の漆」による接触においても、A~Rのいずれの被験者も症状の判定が1~3の比較的軽度な症状に収まっています。

ところが、実際にうるしを使って塗装作業をして漆にカブレるとこういうことになります((((;゜Д゜)))


前出の判定方法によれば、水泡の重症=6といったところでしょうか。

もちろん、この水泡も、うるしの液に接触したからといって何もいきなりできるわけではありません。
同じく、カブレ発症状態の判定方法にあるような1⇒2⇒3⇒4⇒5⇒を経て、この状態の水泡ができるわけです。
さらに写真のこの水泡だらけの腕は、(見るに堪えないので画像はありませんが)水泡が破れてリンパ液でじゅるじゅるに潰瘍化した症状7へと最終的には進んでいます。

(うるしカブレは、一度でもうるしが付着すれば必ず症状7までいくか、といえばそうではなく、軽度の症状でそのまま収束していくこともあります。詳細は材料説明「うるし」のタブのカブレについての記述をご参照ください。)


この写真のような、うるしを扱っている職人さんなどに認知されている「うるしカブレ」と、比較的軽度ですんでいる前出のデータとの差は、試験方法の「接触時間が3分間静置」と、「24時間後に判定」という条件にあります。

一般にうるしカブレは、「皮膚にうるしが付着した時間」が長いければ長いほど症状が重篤化します。

またカブレの症状は接触後、時間をおいて徐々に進行するため、最終的に5や7に達するカブレ具合であっても、「24時間後現在」では1や3であることが考えられます。

もともと特許文献は、従来のものと新しい技術によって可能になったことの差異にスポットを当てるものです。

なので、この情報からだけでは、「実際にうるしを使って作業した時の長い時間の付着によるカブレの最終的な症状のレベル」はよくわかりません。

そこで、この情報を参考にしつつ、
「カブレにくいうるしでは一体どの程度の症状までカブレが進行するのか?」
を自分の腕で実験したいと思いま~す (o^∇^o)ノ


買ったばかりのカブレにくいうるしを開封し、



うるし液を綿棒につけて・・・、



先の試験方法と同じく、前腕の内側の皮膚に5ミリ径程度のっけていきます ・・( ´・ω・)フアン
今回は、3スポットのせてみました。
うるしを接触させてから除去するまでの時間を、
特許文献の試験と同じ3分、
それに30分、3時間の2つの条件を加えて、
うるしが付着していた時間の差によるカブレ具合の差をみることにします。


うるしを付着させてから3hr、30min、3min後にそれぞれ拭き取ります。



そして、拭き取ってからのカブレ症状の変化を、時間の経過を追って観察していきたいと思います。


それでは、まずは拭き取り時間直後の様子です。

接触から3分後、拭き取った状態。
漆がついていた痕跡もカブレもありません。
まったくかゆくない。


接触から30分後、拭き取った状態。
漆がついていた痕跡もカブレもありません。
まったくかゆくない。


接触から3時間後、拭き取った状態。
漆がついていた痕跡とその周辺が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑の軽度=1」といったところでしょう
かゆみはありません。


そして、拭き取り後6時間後の様子です。

接触から6時間後 (接触⇒3分後拭取り)
漆がついていた痕跡が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑の軽度=1」より軽いが0じゃない。
かゆみはまったくありません。
 
接触から6時間後 (接触⇒30分後拭取り)
漆がついていた痕跡とその周辺が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑の軽度=1」
わずかにうずがゆい感じはしますが、手で掻きたくなるほどではありません。


接触から6時間後 (接触⇒3時間後拭取り)
漆がついていた痕跡とその周辺が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑の軽度=1」
わずかにうずがゆい感じはしますが、手で掻きたくなるほどではありません。



そして、拭き取り後24時間後の様子です。
これが先の試験と同じ条件です。

接触から24時間後 (接触⇒3分後拭取り)
前日、わずかに赤くなっていた部分の赤みが引いて、色素沈着しています。
症状の判定は「0」、かゆみはまったくありません。
経験上、これはもう「カブレが治った」と言える状態です。
 
 
接触から24時間後 (接触⇒30分後拭取り)
漆がついていた痕跡とその周辺が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑の軽度からやや軽度=1~2」くらいでしょうか。
少し手で引っ掻きたくなるかゆさです。
それでも、蚊に刺されたよりはマシです。
 
接触から24時間後 (接触⇒3時間後拭取り)
漆がついていた痕跡とその周辺が赤いあとになっています。
症状の判定は「赤斑のやや軽度=2」でしょう。
蚊に刺されたような状態で、手で引っ掻きたくなるかゆさです。
 

こうして、24時間後の状態で特許文献の試験方法と同じ条件である接触後3分の部位をみれば、この試験の多くの被験者と同じく、その症状を「発症なし=0」と判定することもできます。

しかし、あいだの接触後6時間の患部の様子を見る限り、「発症なし」ではなく、「きわめて微弱なうるしカブレがすでに治った状態」とするのがより正しいかもしれません。
また、同じ私の腕でもうるしを30分、3時間と、より長く接触させた患部は、その分だけカブレの症状が進行しており、これは先の文献の被験者においても起こりえたことではないかと類推されます。


さて、さて、24時間後でこんな感じですが、このあとどれだけカブレが進行するのか?

と言っても、一番長い3時間もうるしを接触させていた幹部でさえ症状「2」、ほんの少し赤らんでかゆいだけです。
これが普通のうるしであれば、腕がパンパンに腫れて掻きむしっている頃でしょう。
症状の判定で言えば「赤斑重症=3~4」は確実です。
こうなると、経時でさらに5以上に重篤化してくることが予想されます。
そんな十分すぎる被害が想定されましたので、今回、比較用にもう片方の腕で「普通の漆」にカブレてみる勇気が出ませんでした・・・(ノд・。)

経験則からいえば、24時間後でこの程度ですんでいるのであれば、一番長い3時間接触の患部もこれ以上の重篤化はなく、このまま治癒に向かっていくだろうと考えますが、まぁ、追って見ていきましょう☆



そして、拭き取り後48時間(2日)後の様子です。

接触から2日後 (接触⇒3分後拭取り)
色素沈着もほとんど消えています。
完治したといってよいでしょう。

接触から2日後 (接触⇒30分後拭取り)
赤斑の赤みがひいてあとが色素沈着気味です。
症状の判定は「0~1」くらいでしょうか。
わずかにうずがゆさが残りますが、ほぼ治っているといっていいでしょう。


接触から2日後 (接触⇒3時間後拭取り)
漆がついていた痕跡の周辺の赤みがひいてきています。
症状の判定は「赤斑のやや軽度=2」でしょう。
少しましにはなりましたが、依然蚊に刺されたようなかゆさです。


2日たって、3分接触の患部は完全に治癒しました。
また、30分接触の患部でもカブレが終息してきました。
そして3時間接触の患部も、より赤斑がひどくなったり、水泡ができるなどの重篤化は無く、治っていく方向で推移しています。



拭き取り後72時間(3日)後の様子です。


接触から3日後 (接触⇒30分後拭取り)
赤みは完全にひいてあとが色素沈着しています。
かゆみもまったくありません。
ほとんど治ったといっていい状態でしょう。

接触から3日後 (接触⇒3時間後拭取り)
全体的に赤みがひいてきつつあります。
症状の判定は引き続き「赤斑のやや軽度=2」でしょう。
蚊に刺されたよりはかゆくなくなりました。



拭き取り後96時間(4日)後の様子です。



接触から4日後 (接触⇒30分後拭取り)
色素沈着しています。
はい、もう治りました。



接触から4日後 (接触⇒3時間後拭取り)
全体的に色沈着へ向かっています。
症状の判定は引き続き「赤斑の軽度=0~1」でしょう。
ほとんどかゆくなくなりました。翌日には治る見込みです。




拭き取り後120時間(5日)後の様子です。



接触から5日後 (接触⇒30分後拭取り)
カブレは治って、色素沈着しています。
色素沈着が無くなるまで、このあと1週間程度かかります。


接触から5日後 (接触⇒3時間後拭取り)
カブレがひいて色素沈着しました。
まったくかゆみもなく、治ったと言えます。
こちらは、色素沈着が無くなるまで1~2週間かかりそうです。


と、いうような感じで、
今回最も長い3時間の間うるしが接触していた患部もおおよそ5日間でカブレが終息し、ひどい腫れや水泡が出るなどの重篤化には至りませんでした。

比較用に普通の漆を3時間腕に塗ってカブレてみせる勇気がないのが申し訳ないですが、それだけこの「カブレにくいうるし」でのカブレが軽度ですんだということになります。

もちろん、体質による個人差がありますので、このうるしでもこっぴどくカブレてしまう方がいらっしゃるやもしれません。

ですが今回、ワンスポットながら自分の体で実験してみた結果と、普段の「通常の漆」でのカブレ具合から勘案するならば・・・。

「カブレにくいうるし」は「通常の漆」と比して、カブレるかカブレないかでその確率が低いものというよりは、「通常の漆」よりも皮膚との反応性が低いため、カブレたときの症状が総じて低減されるうるし、という感じです。
その結果、「通常の漆」では軽度のカブレを引き起こす条件でうるしが付着したとしても、この漆の場合ならばカブレの症状が発現しないとか、同じく、「通常の漆」ならば重篤なカブレを引き起こす様な条件でうるしが付着しても軽度の症状ですむ・・といった種類の「カブレにくさ」を持ったうるしという感じでしょうか。


もちろん大前提として、うるしを使った作業においては手袋などの適正な保護具を着用して、体にうるしを付着させないことが大切です。
しかし万が一、体に付着させてしまったとしても、これならかなり軽度のカブレで済みます。

DIY☆うるし部では、このカブレにくいうるし「NOA」を使って、これからイロイロ作っていきたいと思いま~す(o^∇^o)ノ


あ、そうそう、ちなみに今回の実験はあくまで私の体でやったものです。
最初の方に出た特許文献の表のように、カブレの症状の発現には個人差があります。

そのため、もしかしたら人によってはこのカブレにくい漆でも、冒頭の水泡だらけの腕のように重篤なカブレ症状が出てしまう人もいらっしゃるかもしれません。
万が一、そうしたことになったら、直ちに漆の使用を停止して、皮膚科の専門医の診断を受けてください。


余談ですが、今回の実験のように蚊に刺された程度の軽度のカブレであれば、私の場合はムヒを患部に塗ってかゆさを誤魔化して、腫れ自体は自然治癒に任せています。
時々、「うるしカブレにはステロイド系皮膚薬」といった治療法が紹介されていることがありますが、ステロイド系の薬は副作用が強く、一見すると逆に悪化したように思える症状を引き起こすことがあります。
かゆみ止めではどうにもならないようなカブレを感じたら、やはり直ちに皮膚科の専門医にご相談ください。

2012年12月20日木曜日

うるしを買いに行こう!

「DIYでうるしを塗ろう!」の第一歩。

まずは、うるしの調達をやってみたいと思います。

といっても、お店に買いに行くだけですが。
うるしはそこらのホームセンターには売っていません。
取り扱っているのは一部の塗料店やクラフト材料店、友禅の資材店、
そして「うるし屋さん」です。

DIYうるし部では、「カブレにくいうるし」というちょっと特殊なうるしを使用しますので、数ある「うるし屋さん」の中から一か所だけご紹介したいと思います。

「カブレにくいうるし」については、『材料説明「うるし」』のタブをご参照ください。


それでは、普通の生活を送っている限りまず縁がないであろう「うるし屋さん」についてご紹介します。

うるし屋さんは「うるし液」の国内調達と海外からの輸入、そのうるし液の精製・加工、そして販売、とうるし塗装&工芸で使用する副資材の販売を行っている専門の業者さんです。

そんな数あるうるし屋さんの一つ、京都の佐藤喜代松商店さんに「カブレにくいうるし」を買いに行きたいと思います。


 株式会社 佐藤喜代松商店  

 〒603-8357 京都府京都市北区平野宮西町105番地
 定休日  日祝祭日、第2、4土曜日
  営業時間 9:00~18:00
  TEL  :075-461-9120
  FAX  :075-462-2173
  HP : http://www.urusi.co.jp
  E-mail: info@urusi.co.jp


まずは、電話かファックス・メールなどで欲しいうるしを注文しましょう!

DIYうるし部で使用する「カブレにくいうるし」は以下の2種です。

  「NOA透素黒目漆」 (のあ・すきすぐろめうるし)
  「NOA黒素黒目漆」 (のあ・くろすぐろめうるし)

「透漆」が茶褐色透明で、「黒漆」が黒色です。
入り目は100g~100g単位で購入できますが、お試しサイズの50gというのもあります!

どの漆がどれだけ欲しいのかをお店に伝えましょう(o^∇^o)ノ

ちなみに今回は現地に受け取りに行きますが、宅配便で送ってもらうことも可能です。
代金は振込になります。

その場合には注意しなければならないことが一点あります。
夏場は配送業者のトラックが高温になり、輸送中に漆が傷んでしまいます。
このため、夏季の発注時はクール冷蔵で送ってもらうことをオススメします☆


今回は直接もらいに行くよ(≧ω≦)b


大きな地図で見る


佐藤喜代松商店さんは、公共交通機関の駅からちょっと遠いところにあります。
なので、最寄りの駅から現地にたどり着くには、ひたすら歩くか市バスに乗っていかなくてはなりません。

今回は阪急「西院」駅から、


駅前のこの横断歩道を、画面手前側に向かって渡った先にあるバス停、
アフレ西院前にある「西大路四条」から205系のバスに乗っていきます☆


目的地である佐藤喜代松商店さんにいちばん近いバス停は「わら天神」です。
他のスタート地点からどのバスに乗っていけばいいかは、京都市バスの路線図をご確認ください。

京都市バス:路線図
http://www.city.kyoto.lg.jp/kotsu/page/0000019770.html


そして「わら天神」で降りて、バス停から少し南へ坂を下っていくと建物が見えてきます。
あ、ちなみにバスの運賃は大人220円、子供110円です。
ついでに京都観光をする場合は一日乗車券カード500円を買うとお得です♪

さぁ、正面までやってきましたよ~。
とても入りにくそうですが、勇気をもって暖簾をくぐりましょう(笑)

1階は事務所になっています。
そこで、うるしを受け取って代金をお支払いします☆

今回は
  「NOA透素黒目漆」 (のあ・すきすぐろめうるし)、100gで3,500円でした。
カブレにくい「透漆(茶褐色透明)」のうるしです!


絵の具のようにチューブに入っています。
使って中身が減ったら、チューブの中に空気が残らないようにチューブを徐々につぶして行って栓をします。

ちなみに、購入時の入り目が500g以上になると容器が桶に変わります。

さて、無事にうるしをゲットできました☆
家に持ち帰ったら「冷蔵庫」に入れて保管しましょう!!


次回は、「かぶれにくいうるし」がどれくらいカブレにくいのかを実験したいと思います。

2012年8月20日月曜日

漆を科学する会 研究発表会に行ってきました☆ その2

研究発表会2日目のメモ

2日目は、先ず京都府立大生命環境科学研究科の石崎陽子研究員の発表。

3、うるしの木がウルシオールを作る仕組みの遺伝子特定のための研究。
  優良な漆液を出す樹の個体特定に結びつける遺伝子解析の研究。


という、「遺伝子」がテーマの発表内容でした。
この辺になると、専門的な実験経過の説明は私の知見ではチンプンカンプンに近い状態でしたが、
「求めていること」は明確で、大変興味深いお話でした。


ちょうど、この発表の3週間前に京都新聞で、このテーマに関する記事がありました。

【京都新聞】
丹波漆再興、科学で支援 府立大教授ら遺伝子解析

発表では、この記事でも取り上げられている
「漆の主成分ウルシオールの合成にかかわる酵素遺伝子の絞り込み」
と、
「丹波うるしに特徴的な遺伝子の特定」
という2つのテーマについてのご説明がありました。


「遺伝子」という分野に全く知識のない私のざっくりとした理解では、

①うるしの主成分、ウルシオールを合成する酵素遺伝子を捜索中⇒現状ではまだ特定できていない。

②日本産、中国産、あるいは日本国内でも浄法寺のものと丹波のものは、樹種が同じでも遺伝子で産出地を特定できないか?その識別を行うために遺伝子のどの部分を見ればいいのかを探している。

③ ②の産地やその近縁関係を特定する遺伝情報の候補と①のウルシオール合成にかかわる遺伝子の候補は別の部分なので、産地による遺伝子の差異がそのままウルシオールの合成の差異にはつながらない。
⇒つまり「〇〇産と特定できること」と、品質を関連づけることはできない。

④ ①と②をつなげること、すなわち記事のような「優良な樹の近縁の特定」に結びつけるには、まず②の研究から丹波種として認められるものを特定し、さらに①のウルシオール合成遺伝子の特定と、その差異が採取された「うるし液」とどういう相関関係があるのかを明らかにしたうえで、「丹波に土着の樹個体」かつ「良質なうるし液をつくる個体」を明らかにしていく作業が必要。

ということでした。

うーん、難解 ( ´・ω・)


そして、①の「ウルシオールを合成する酵素遺伝子」。

こやつが特定されれば、うるしの樹以外の生き物から「うるし液」を採取する遺伝子組み換え技術が誕生する道が開けてくる
・・・というお話もありました Σ(°д°;;)

確かに、現状で一から化学的にうるし液を合成しようと思うと、日本産の漆を樹から採取するよりもコストがかかって割に合わないということですから、そんな技術が開発されれば、うるしがもっと身近になるかもしれません。

もっともこの手の話は、熱心な植樹活動を行いうるし掻きを再興しようと活動されてる方々からは反発を受けそうですが、一方でこういう技術が育たなければ、うるしっていうものがホントに無くなってしまうかもしれないというのも、やはりその通りだと思うので、今後の研究に期待したい感じです!



最後のブータンの発表は下記に詳細な資料が公開されいますので、こちらをご覧ください☆
http://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/bitstream/10241/7905/1/62-1-matsushima.pdf

2012年8月18日土曜日

漆を科学する会 研究発表会に行ってきました☆ その1

うるし界の数少ない学会(?)である漆を科学する会の研究発表討論会が
先月末の27日(金)~28日(土)に、東京お台場の都立産技研で行われました。


地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター
http://www.iri-tokyo.jp/


ちなみにこの「漆を科学する会」、うるしの材料科学分野を研究されている錚々たる研究者の方々が参加されています。
【漆を科学する会】
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/urushi/

なので私も、普段うるしの研究論文でお名前を拝見するばかりの研究者の方たちを目の前にして、完全にミーハー状態でした(;´▽`A``

さて、今回の発表テーマはズバリ「中国産うるしの再考」といった感じ。

発表内容は


1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析

2、中国産漆の輸入の歴史
(かつての輸入うるしのカサ増し問題とその解決への道のり、うるしの輸入自由化にあたっての中国の各産地の品質調査とルートづくりのお話。)

3、うるしの木がウルシオールを作る仕組みの遺伝子特定のための研究。
  優良な漆液を出す樹の個体特定に結びつける遺伝子解析の研究。

4、ブータンでの漆採取と漆器製造の調査報告

などなど、興味津々の2日間でした☆

また、最近個人的に興味のある「黒の時代」という日本人が朱色の漆を800~1000年間まったくと言っていいほど塗らなくなった期間の謎、についても色んなお話を伺えてよかったです(●´ω`●)v



以下、細かい内容を備忘録としてメモメモしま~す☆

1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析

科学する会では過去何度も中国産うるしの調査をされていますが、今回は平成23年の調査報告を京都府福知山市のうるし掻きの資料館と体験施設の「やくの 木と漆の館」の小野田氏がレポートされました。

道具や採取方法の紹介などと共に、資源量の状況や成分分析と日本産うるしとの比較報告などがありました。


中国式うるし掻き釜と、採取用の塩ビシート

資源量は農地改革が進んだ結果、以前漆林だったところが切り開かれてよりお金になる作物の栽培に切り替えられていて、漆の木はそういった作物が育たない手つかずの場所(2000m級の高地)に限られてきている・・ということでした。
ただ、それでも絶対量は多いため、近々にどうこうというほど壊滅的ではない模様でした。

品質面では以前から、うるし屋さんからは「近年の中国産うるしは日本産うるしよりも品質が良い」という情報が伝わっていましたが、今回の小野田氏のレポートでも、
①中国城口産→②茨城大子産→③岩手浄法寺産→④京都府夜久野産の順で品質が良いという発表がありました。


調査検体の数が少ないのでこれだけで産地の優劣を決することはできないとは思いますが・・、やはり分母の絶対数が多い分中国産の方がいい漆がたくさん取れるというのは自然なことでしょう。


ところで、以前から国内には「中国産うるしはウルシオールの量が少なく、水分量が多いので腐敗臭がして品質が悪く、日本産うるしはウルシオールの量が多くて品質がいい」という意見を言う人たちがいます。


これは小野田氏の発表やこれまでの科学する会の調査結果が、「中国産うるしは日本産うるしと同等かそれ以上」としていることから考えると、たいへん矛盾があります。


その矛盾について説明をしてくださったのが、
2、中国産漆の輸入の歴史
を発表してくださったのが、戦後から現在に至るまで漆の輸入実務に携わっておられるコバラックの小林社長でした。

現行の中国産うるしは日本のそれと科学的にその成分が同じものであることが知られています。
ところが、戦後の中国産は日本産に比べて品質が悪いといわれてきました。

これは、かつての中国産うるしが水で薄められたカサ増し状態で輸入されたため腐りやすかったためで、中国側が経済の改革開放前の共産主義バリバリ状態で対日本のうるしの輸出窓口が1つしかなく、そこに集められた中国の各産地のうるしが固形分(水以外の揮発しない成分)を62%になるように水で薄められて調整されていたことからおこっていたものでした。
これに対してうるしの供給をほぼ中国一本に頼っていた日本側はその状態を泣き寝入りで受け入れるしかなく、この薄められた漆のせいで「中国産は腐敗臭がして品質が悪い。」というイメージが出来上がったということでした。
従って、よく漆関係の資料で「日本産うるしはウルシオールの量が多く〇〇%程度あるが、中国産は60%程度しかない。」というような記述がみられますが、実際に現地で採取した漆そのものを、日本のうるしと比較しても、成分濃度に大した差異はないのです。
また、この品質差には「うるしの採取方法」が関連しているのではないか?という意見もありましたが、これも科学的分析で、違いはないという見解が出ています。

その後、紆余曲折を経て、90年代に中国側の集積窓口を2本化することで中国国内での競争を生み、「水によるカサ増し」を辞めさせることに成功し、中国産漆の品質は全体的に向上します。
ただ、この状態でも「ある産地の低品質のうるし」と「別の産地の高品質のうるし」はまとめられて「中国産の、しかしカサ増しは行われていないうるし」として、ある程度均質化されていたようです。

さらに時代が下って、中国のWTO加盟に当たり、うるしを中国の生産産地から直接購入できるようになり、高品質のうるしが取れる漆産地に絞って輸入ルートを開拓することが可能になりました。
これによって、日本産の100倍の資源量がある以上、その中でよいものだけを選んで持って来れば、日本産の品質を上回る中国産うるしを入手することができるようになったわけです。

前述の小野田氏の調査された産地は、そんな優良うるしの産地の一つでした。


しかしこの自由化によって、良くも悪くも「中国国内で行われていた低品質と高品質の均一化」は必須のものではなくなりました。
その結果、より低品質の中国産うるしを選んで輸入することも、一方では可能となりました。
このため、日本国内では「日本産より​も品質の良い中国産」と「やや旧来に近い腐敗臭のする中​国産」の両方が流通している状況になっています。

日本側にも固形分が薄くてその分安いうるしを​求める業者があり、そういった業者が販売した「中国産うるし」が、「中国産は腐敗臭がして品質が悪い」という誤解を解消できない原因になっているというお話でした。