研究発表会2日目のメモ
2日目は、先ず京都府立大生命環境科学研究科の石崎陽子研究員の発表。
3、うるしの木がウルシオールを作る仕組みの遺伝子特定のための研究。
優良な漆液を出す樹の個体特定に結びつける遺伝子解析の研究。
という、「遺伝子」がテーマの発表内容でした。
この辺になると、専門的な実験経過の説明は私の知見ではチンプンカンプンに近い状態でしたが、
「求めていること」は明確で、大変興味深いお話でした。
ちょうど、この発表の3週間前に京都新聞で、このテーマに関する記事がありました。
【京都新聞】
丹波漆再興、科学で支援 府立大教授ら遺伝子解析
発表では、この記事でも取り上げられている
「漆の主成分ウルシオールの合成にかかわる酵素遺伝子の絞り込み」
と、
「丹波うるしに特徴的な遺伝子の特定」
という2つのテーマについてのご説明がありました。
「遺伝子」という分野に全く知識のない私のざっくりとした理解では、
①うるしの主成分、ウルシオールを合成する酵素遺伝子を捜索中⇒現状ではまだ特定できていない。
②日本産、中国産、あるいは日本国内でも浄法寺のものと丹波のものは、樹種が同じでも遺伝子で産出地を特定できないか?その識別を行うために遺伝子のどの部分を見ればいいのかを探している。
③ ②の産地やその近縁関係を特定する遺伝情報の候補と①のウルシオール合成にかかわる遺伝子の候補は別の部分なので、産地による遺伝子の差異がそのままウルシオールの合成の差異にはつながらない。
⇒つまり「〇〇産と特定できること」と、品質を関連づけることはできない。
④ ①と②をつなげること、すなわち記事のような「優良な樹の近縁の特定」に結びつけるには、まず②の研究から丹波種として認められるものを特定し、さらに①のウルシオール合成遺伝子の特定と、その差異が採取された「うるし液」とどういう相関関係があるのかを明らかにしたうえで、「丹波に土着の樹個体」かつ「良質なうるし液をつくる個体」を明らかにしていく作業が必要。
ということでした。
うーん、難解
(
´・ω・)
そして、①の「ウルシオールを合成する酵素遺伝子」。
こやつが特定されれば、うるしの樹以外の生き物から「うるし液」を採取する遺伝子組み換え技術が誕生する道が開けてくる
・・・というお話もありました Σ(°д°;;)
確かに、現状で一から化学的にうるし液を合成しようと思うと、日本産の漆を樹から採取するよりもコストがかかって割に合わないということですから、そんな技術が開発されれば、うるしがもっと身近になるかもしれません。
もっともこの手の話は、熱心な植樹活動を行いうるし掻きを再興しようと活動されてる方々からは反発を受けそうですが、一方でこういう技術が育たなければ、うるしっていうものがホントに無くなってしまうかもしれないというのも、やはりその通りだと思うので、今後の研究に期待したい感じです!
最後のブータンの発表は下記に詳細な資料が公開されいますので、こちらをご覧ください☆
http://uuair.lib.utsunomiya-u.ac.jp/dspace/bitstream/10241/7905/1/62-1-matsushima.pdf
2012年8月20日月曜日
2012年8月18日土曜日
漆を科学する会 研究発表会に行ってきました☆ その1
うるし界の数少ない学会(?)である漆を科学する会の研究発表討論会が
先月末の27日(金)~28日(土)に、東京お台場の都立産技研で行われました。
地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター
http://www.iri-tokyo.jp/
ちなみにこの「漆を科学する会」、うるしの材料科学分野を研究されている錚々たる研究者の方々が参加されています。
【漆を科学する会】
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/urushi/
なので私も、普段うるしの研究論文でお名前を拝見するばかりの研究者の方たちを目の前にして、完全にミーハー状態でした(;´▽`A``
さて、今回の発表テーマはズバリ「中国産うるしの再考」といった感じ。
発表内容は
1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析
2、中国産漆の輸入の歴史
(かつての輸入うるしのカサ増し問題とその解決への道のり、うるしの輸入自由化にあたっての中国の各産地の品質調査とルートづくりのお話。)
3、うるしの木がウルシオールを作る仕組みの遺伝子特定のための研究。
優良な漆液を出す樹の個体特定に結びつける遺伝子解析の研究。
4、ブータンでの漆採取と漆器製造の調査報告
などなど、興味津々の2日間でした☆
また、最近個人的に興味のある「黒の時代」という日本人が朱色の漆を800~1000年間まったくと言っていいほど塗らなくなった期間の謎、についても色んなお話を伺えてよかったです(●´ω`●)v
以下、細かい内容を備忘録としてメモメモしま~す☆
1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析
科学する会では過去何度も中国産うるしの調査をされていますが、今回は平成23年の調査報告を京都府福知山市のうるし掻きの資料館と体験施設の「やくの 木と漆の館」の小野田氏がレポートされました。
道具や採取方法の紹介などと共に、資源量の状況や成分分析と日本産うるしとの比較報告などがありました。
中国式うるし掻き釜と、採取用の塩ビシート
資源量は農地改革が進んだ結果、以前漆林だったところが切り開かれてよりお金になる作物の栽培に切り替えられていて、漆の木はそういった作物が育たない手つかずの場所(2000m級の高地)に限られてきている・・ということでした。
ただ、それでも絶対量は多いため、近々にどうこうというほど壊滅的ではない模様でした。
品質面では以前から、うるし屋さんからは「近年の中国産うるしは日本産うるしよりも品質が良い」という情報が伝わっていましたが、今回の小野田氏のレポートでも、
①中国城口産→②茨城大子産→③岩手浄法寺産→④京都府夜久野産の順で品質が良いという発表がありました。
調査検体の数が少ないのでこれだけで産地の優劣を決することはできないとは思いますが・・、やはり分母の絶対数が多い分中国産の方がいい漆がたくさん取れるというのは自然なことでしょう。
ところで、以前から国内には「中国産うるしはウルシオールの量が少なく、水分量が多いので腐敗臭がして品質が悪く、日本産うるしはウルシオールの量が多くて品質がいい」という意見を言う人たちがいます。
これは小野田氏の発表やこれまでの科学する会の調査結果が、「中国産うるしは日本産うるしと同等かそれ以上」としていることから考えると、たいへん矛盾があります。
その矛盾について説明をしてくださったのが、
2、中国産漆の輸入の歴史
を発表してくださったのが、戦後から現在に至るまで漆の輸入実務に携わっておられるコバラックの小林社長でした。
現行の中国産うるしは日本のそれと科学的にその成分が同じものであることが知られています。
ところが、戦後の中国産は日本産に比べて品質が悪いといわれてきました。
これは、かつての中国産うるしが水で薄められたカサ増し状態で輸入されたため腐りやすかったためで、中国側が経済の改革開放前の共産主義バリバリ状態で対日本のうるしの輸出窓口が1つしかなく、そこに集められた中国の各産地のうるしが固形分(水以外の揮発しない成分)を62%になるように水で薄められて調整されていたことからおこっていたものでした。
これに対してうるしの供給をほぼ中国一本に頼っていた日本側はその状態を泣き寝入りで受け入れるしかなく、この薄められた漆のせいで「中国産は腐敗臭がして品質が悪い。」というイメージが出来上がったということでした。
従って、よく漆関係の資料で「日本産うるしはウルシオールの量が多く〇〇%程度あるが、中国産は60%程度しかない。」というような記述がみられますが、実際に現地で採取した漆そのものを、日本のうるしと比較しても、成分濃度に大した差異はないのです。
また、この品質差には「うるしの採取方法」が関連しているのではないか?という意見もありましたが、これも科学的分析で、違いはないという見解が出ています。
その後、紆余曲折を経て、90年代に中国側の集積窓口を2本化することで中国国内での競争を生み、「水によるカサ増し」を辞めさせることに成功し、中国産漆の品質は全体的に向上します。
ただ、この状態でも「ある産地の低品質のうるし」と「別の産地の高品質のうるし」はまとめられて「中国産の、しかしカサ増しは行われていないうるし」として、ある程度均質化されていたようです。
さらに時代が下って、中国のWTO加盟に当たり、うるしを中国の生産産地から直接購入できるようになり、高品質のうるしが取れる漆産地に絞って輸入ルートを開拓することが可能になりました。
これによって、日本産の100倍の資源量がある以上、その中でよいものだけを選んで持って来れば、日本産の品質を上回る中国産うるしを入手することができるようになったわけです。
前述の小野田氏の調査された産地は、そんな優良うるしの産地の一つでした。
しかしこの自由化によって、良くも悪くも「中国国内で行われていた低品質と高品質の均一化」は必須のものではなくなりました。
その結果、より低品質の中国産うるしを選んで輸入することも、一方では可能となりました。
このため、日本国内では「日本産よりも品質の良い中国産」と「やや旧来に近い腐敗臭のする中国産」の両方が流通している状況になっています。
日本側にも固形分が薄くてその分安いうるしを求める業者があり、そういった業者が販売した「中国産うるし」が、「中国産は腐敗臭がして品質が悪い」という誤解を解消できない原因になっているというお話でした。
先月末の27日(金)~28日(土)に、東京お台場の都立産技研で行われました。

地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター
http://www.iri-tokyo.jp/
ちなみにこの「漆を科学する会」、うるしの材料科学分野を研究されている錚々たる研究者の方々が参加されています。
【漆を科学する会】
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/urushi/
なので私も、普段うるしの研究論文でお名前を拝見するばかりの研究者の方たちを目の前にして、完全にミーハー状態でした(;´▽`A``
さて、今回の発表テーマはズバリ「中国産うるしの再考」といった感じ。
発表内容は
1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析
2、中国産漆の輸入の歴史
(かつての輸入うるしのカサ増し問題とその解決への道のり、うるしの輸入自由化にあたっての中国の各産地の品質調査とルートづくりのお話。)
3、うるしの木がウルシオールを作る仕組みの遺伝子特定のための研究。
優良な漆液を出す樹の個体特定に結びつける遺伝子解析の研究。
4、ブータンでの漆採取と漆器製造の調査報告
などなど、興味津々の2日間でした☆
また、最近個人的に興味のある「黒の時代」という日本人が朱色の漆を800~1000年間まったくと言っていいほど塗らなくなった期間の謎、についても色んなお話を伺えてよかったです(●´ω`●)v
以下、細かい内容を備忘録としてメモメモしま~す☆
1、最新の中国うるしの植栽地の調査と成分分析
科学する会では過去何度も中国産うるしの調査をされていますが、今回は平成23年の調査報告を京都府福知山市のうるし掻きの資料館と体験施設の「やくの 木と漆の館」の小野田氏がレポートされました。
道具や採取方法の紹介などと共に、資源量の状況や成分分析と日本産うるしとの比較報告などがありました。

中国式うるし掻き釜と、採取用の塩ビシート
資源量は農地改革が進んだ結果、以前漆林だったところが切り開かれてよりお金になる作物の栽培に切り替えられていて、漆の木はそういった作物が育たない手つかずの場所(2000m級の高地)に限られてきている・・ということでした。
ただ、それでも絶対量は多いため、近々にどうこうというほど壊滅的ではない模様でした。
品質面では以前から、うるし屋さんからは「近年の中国産うるしは日本産うるしよりも品質が良い」という情報が伝わっていましたが、今回の小野田氏のレポートでも、
①中国城口産→②茨城大子産→③岩手浄法寺産→④京都府夜久野産の順で品質が良いという発表がありました。
調査検体の数が少ないのでこれだけで産地の優劣を決することはできないとは思いますが・・、やはり分母の絶対数が多い分中国産の方がいい漆がたくさん取れるというのは自然なことでしょう。
ところで、以前から国内には「中国産うるしはウルシオールの量が少なく、水分量が多いので腐敗臭がして品質が悪く、日本産うるしはウルシオールの量が多くて品質がいい」という意見を言う人たちがいます。
これは小野田氏の発表やこれまでの科学する会の調査結果が、「中国産うるしは日本産うるしと同等かそれ以上」としていることから考えると、たいへん矛盾があります。
その矛盾について説明をしてくださったのが、
2、中国産漆の輸入の歴史
を発表してくださったのが、戦後から現在に至るまで漆の輸入実務に携わっておられるコバラックの小林社長でした。
現行の中国産うるしは日本のそれと科学的にその成分が同じものであることが知られています。
ところが、戦後の中国産は日本産に比べて品質が悪いといわれてきました。
これは、かつての中国産うるしが水で薄められたカサ増し状態で輸入されたため腐りやすかったためで、中国側が経済の改革開放前の共産主義バリバリ状態で対日本のうるしの輸出窓口が1つしかなく、そこに集められた中国の各産地のうるしが固形分(水以外の揮発しない成分)を62%になるように水で薄められて調整されていたことからおこっていたものでした。
これに対してうるしの供給をほぼ中国一本に頼っていた日本側はその状態を泣き寝入りで受け入れるしかなく、この薄められた漆のせいで「中国産は腐敗臭がして品質が悪い。」というイメージが出来上がったということでした。
従って、よく漆関係の資料で「日本産うるしはウルシオールの量が多く〇〇%程度あるが、中国産は60%程度しかない。」というような記述がみられますが、実際に現地で採取した漆そのものを、日本のうるしと比較しても、成分濃度に大した差異はないのです。
また、この品質差には「うるしの採取方法」が関連しているのではないか?という意見もありましたが、これも科学的分析で、違いはないという見解が出ています。
その後、紆余曲折を経て、90年代に中国側の集積窓口を2本化することで中国国内での競争を生み、「水によるカサ増し」を辞めさせることに成功し、中国産漆の品質は全体的に向上します。
ただ、この状態でも「ある産地の低品質のうるし」と「別の産地の高品質のうるし」はまとめられて「中国産の、しかしカサ増しは行われていないうるし」として、ある程度均質化されていたようです。
さらに時代が下って、中国のWTO加盟に当たり、うるしを中国の生産産地から直接購入できるようになり、高品質のうるしが取れる漆産地に絞って輸入ルートを開拓することが可能になりました。
これによって、日本産の100倍の資源量がある以上、その中でよいものだけを選んで持って来れば、日本産の品質を上回る中国産うるしを入手することができるようになったわけです。
前述の小野田氏の調査された産地は、そんな優良うるしの産地の一つでした。
しかしこの自由化によって、良くも悪くも「中国国内で行われていた低品質と高品質の均一化」は必須のものではなくなりました。
その結果、より低品質の中国産うるしを選んで輸入することも、一方では可能となりました。
このため、日本国内では「日本産よりも品質の良い中国産」と「やや旧来に近い腐敗臭のする中国産」の両方が流通している状況になっています。
日本側にも固形分が薄くてその分安いうるしを求める業者があり、そういった業者が販売した「中国産うるし」が、「中国産は腐敗臭がして品質が悪い」という誤解を解消できない原因になっているというお話でした。
登録:
投稿 (Atom)