「漆カブレとかぶれにくい漆」について


 うるしカブレの傾向と対策  


 さて、DIYでうるしを扱うにあたって、一番の障害となるのが「うるしをさわるとカブレてしまう」という問題です。

 うるしを扱ったことのある人のうち、大体9割程度の人は、この「うるしカブレ」を経験します。


 うるしカブレの原因は、うるしの主成分である「ウルシオール」と皮膚のタンパク質が反応して起こるアレルギー反応ですが、その症状の発現のしやすさ(カブレやすさ)や、症状の程度(どのくらいひどくカブレるか)は個人差があります。

 一番多いのは、うるし液が付着した部分にカブレが起こるケースですが、付着した部分を起点として直接うるしのついていない周りの部分にもカブレが広がるケースや、直接うるしが付着していなくともうるしを扱っている部屋の雰囲気等からカブレが発症するケースもあります。(この場合、空気中に揮発しているウルシオールが原因ではないかと思われます)


 中にはまったくカブレない人もいますが、同じ人でも体調や季節によってひどくカブレたりそうでなかったりということがあり、「自分はうるしにカブレるのか?」あるいは「どの程度カブレるのか?」は、実際にカブレるような状況になってみないとわかりません。

 また、一般的にうるしカブレは「初めてうるしにカブレた時」の症状がもっとも重篤化し、2度目3度目となるとカブレの症状が軽減される傾向にあります。このことから、「うるしカブレは免疫ができる」というふうに言われています。

 その、一番ひどい症状の現れる「初めてのうるしカブレ」は、

  ① うるし液の付着した部分の皮膚が熱をもち、だんだんかゆくなってくる。

  ② かゆいところが赤く腫れあがってきて、うるしの付着していない部分まで広がってくる。

  ③ 腫れ上がった患部に水疱ができ、ますます腫れてくる&とってもかゆい・・。

  ④ 水疱どうしがつながって、患部全体が水膨れしたようになる。


  ⑤ 水膨れが収まって腫れもひき、患部が色素沈着したようになる。


  ⑥ 色素沈着が治り、うるしにカブレる前の状態に戻る。


 という流れでその症状が進んでいきますが、この間およそ1~2か月はもうひたすらカユみとの戦いです。(もしカブレてしまったら、カユいからとかきむしったりせず皮膚科医にご相談ください。)


 しかし、一度この「一番ひどいカブレ」を経験した後は(もちろん個人差はありますが)④のような水疱がぶくぶくとできるような重篤な症状が起こりにくくなり、①→②→③→⑤→⑥とか①→②→⑥などと、「カブレても重篤化せず、短期間で治る」ようになってくる場合が多いようです。


 一方で、「何度触っても激しくカブレる」とか「内臓までカブレる」といったような、深刻なアレルギー症状になってしまう方もごくまれにおられますので、もし「うるしカブレ」が皮膚のかゆみや腫れだけでなく、他の症状をもたらしていると感じられた場合は、すぐに皮膚科医だけでなく内科医にもご相談ください。


 とはいえ、多くの場合「うるしカブレ」は「カブレた跡」も残らず、きれいに治る場合が多いですのでご安心ください。

 ・・なんて言っても、これだけ脅かしちゃえば、とても安心なんてできませんよね。

 「DIYでうるしを塗ろう!」と言っているのに、こんなにブクブクに皮膚が膨れ上がるような「うるしカブレ」の洗礼受けなければならないなんて不条理です。


 うるしにカブレないためには、まず第一に「皮膚に付着させない」ことです。手袋などを着用し、直接体にうるしが触れないように注意しましょう。また、皮膚に付着してしまった場合には、すぐに溶剤かサラダ油などをティッシュに染み込ませて念入りに拭き取り、最後に石鹸か中性洗剤で患部を水洗いましょう。

 それでもうるしを触っていれば、いずれ必ずカブレてしまう瞬間がやってきてしまいます。
 しかし、このページが「誰でもうるしが塗れる世界」を目指す以上、うるしにカブレない、万が一カブレたとしても軽い症状で済ませたいところです! 

 ・・そう。
 そんな切なる願いに答える超DIY向けな、だけど「本物のうるし」が世の中にはあるのです。

 しかし一方で、世の中にはDIY向けな「うるしと称する本当はうるしではない塗料」というフェイントもあります。まずは、この「ニセうるし塗料」がどんなものなのかをご説明します。




 代表的な「ニセうるし塗料」  



① ワシン工芸うるし(合成うるし)

メーカー  : 和信ペイント株式会社
内容物   : ウレタン樹脂塗料
食品衛生法 : 適合(食器に使用可能)

 木材用塗料の最大手、和信化学工業の家庭用塗料部門の子会社、和信ペイントが販売するウレタン塗料。
 容器に「合成うるし」と書いてあるが、別に「漆と同じ成分を化学的に合成した」というわけではなく、普通にウレタンの塗料。(2012年には水性版が発売され、こちらには「水性ウレタン」と明記してある)
 食品衛生法には適合しているので、家具や食器塗装などにも幅広くウレタン塗装ができます。



② フグ印新うるし

メーカー  : 櫻井釣漁具株式会社
内容物   : カシュー樹脂塗料
食品衛生法 : 非適合(食器に使用してはいけません)

 昔から和竿にはうるしによる変り塗り(デコレーションペイント)が行われていて、これはうるしの代替塗料として販売されている釣り具メーカーのカシュー樹脂系塗料。
 食品衛生法には適合しておりませんので、食器類へのご使用は避けたほうがよいでしょう。
ってゆーか、容器その他に成分表示などが一切ないのは・・・。

※ 他にも、「特製うるし」や「高級うるし」といった同様の釣り具用塗料があります。



 一般に、ホームセンターやクラフトショップなどではこういったDIYやホビー用途の「うるし」が販売さています。しかし実際には、これらは「本当はうるしではない塗料」なのです。

 もちろん、硬化の管理やカブレを心配する必要もなく、手軽に扱えて便利なホビー用塗料であることに変わりはありませんが、やはり「うるし」ではありません。

 そして、「カブレにくいうるし」は上記のような「そもそも、うるしとは別の塗料」とは異なり、本当の天然うるしをカブレにくいように加工した物なのです。






  カブレにくい「うるし」について


 カブレの原因はうるしの主成分である「ウルシオール」と皮膚のタンパク質との反応で起こるアレルギー反応ですから、そのウルシオールが皮膚のタンパク質と反応する前に「あらかじめ別のタンパク質と反応させといちゃえ!」というのが、この「カブレにくいうるし」です。

 よく花粉症のクスリのCMで『花粉が凸、体の花粉と反応しそうなところが凹で、花粉の凸が体の凹にアタックする前に、クスリの凸で体の凹をふさいじゃう!』みたいな視覚表現がなされますが、この漆の場合は『漆の凸にあらかじめタンパク質加水分解物(アミノ酸のようなもの)でつくった凹をはめ込んでおき、皮膚の凹にアタックさせないようにしたもの。』というイメージです。

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 「カブレにくいうるし」は名前の通り、あくまで「カブレにくい」うるしです。

 「カブレない」うるしではありません。

 通常のうるしではおよそ9割の人がカブレてしまいますが、その確率がかなり低くなる。あるいは仮にカブレても、その症状がいくぶん低減される・・という「うるし」です。

 これは、ウルシオールとタンパク質加水分解物を反応させることでうるし液の粘度があがってしまうため、タンパク質加水分解物の添加量を増やすと、どんどん粘っこくなり塗料としての使い勝手がわるくなっていってしまうので、その添加量には限界があり、「カブレにくいうるし」液全体を通してみれば、タンパク質加水分解物と未反応の(上記のイラストでいえば、くつしたを履いていない)ウルシオールがまだいくらか残っており、その分カブレが生じる可能性が残っているのではないかと考えられます。

 いずれにせよ「カブレにくいうるし」を扱うときも、カブレないように、適切な保護具(手袋や長袖の服など)を着用して、うるし液に直接触れないようにする習慣が必要です。



カブレにくいうるしの入手先


 「カブレにくいうるし」は京都の漆材料店「佐藤喜代松商店」さんで入手できます。

 カブレにくいうるしの商品名は「NOA漆」となっており、その中種類として、「生漆」「透素黒目漆」「黒素黒目漆」の3種類があります。


 したがって、ご購入の際は、

  「NOA生漆」      (のあ・きうるし)
  「NOA透素黒目漆」 (のあ・すきすぐろめうるし)
  「NOA黒素黒目漆」 (のあ・くろすぐろめうるし)

と、いう名前を覚えておいていただければ大丈夫です。

また、入り目は100g~から100g単位で購入できます。



 株式会社 佐藤喜代松商店  

 〒603-8357 京都府京都市北区平野宮西町105番地
 定休日  日祝祭日、第2、4土曜日
  営業時間 9:00~18:00
  TEL  :075-461-9120
  FAX  :075-462-2173
  HP : http://www.urusi.co.jp
  E-mail: info@urusi.co.jp



2012年8月6日作製
2020年6月6日改定